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仕事中・通勤中の交通事故で労災保険を使う方法と自賠責保険との違いとは?

仕事中・通勤中の交通事故は労災使用できるケースも!

(最終更新日2022.5.15)

 

仕事中・通勤中の交通事故では、労災保険を使用できるケースがあります。本記事では、仕事中・通勤中の交通事故で使える労災保険のメリットや自賠責保険との違いを解説します。

 

 

仕事中・通勤中の交通事故は、労災保険でも補償される!

仕事中・通勤中の交通事故では、被害者は加害者の任意保険や自賠責保険以外に、自分の労災保険からも補償を受けられます。

 

労災保険とは、正式名称を労働者災害補償保険といい、業務上の事由や通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して国が保険金を支払う制度です。労災保険の対象となる労働者には、正社員だけでなく契約社員やアルバイト・パートなどの非正規雇用もふくまれます。つまり、事業主から賃金を得ているすべての従業員が給付の対象です。

 

そのため業務中(仕事中)の事故や通勤中の事故では、非正規雇用も含めすべての労働者が労災保険を使えます。具体的なケースとしては、

  • 会社の営業車で取引先に向かう途中、事故に遭いケガをした(業務中の事故)
  • 会社に届け出ている通勤経路で会社から帰宅する途中、事故に遭いケガをした(通勤中の事故)

などが考えられます。

 

労災保険と自賠責保険は併用できる?

交通事故の被害者となって補償を受けるにあたり、請求先として一般的なのは加害者の自賠責保険です。自賠責保険とは、正式名称を自動車損害賠償責任保険といい、交通事故の被害者に対する最低限の補償として、自賠責保険会社が保険金を支払う制度です。

 

では、交通事故では労災保険と自賠責保険は併用できるのでしょうか?

 

労災保険と自賠責保険は原則、二重取りできない

結論から言えば、交通事故では原則として、労災保険と自賠責保険は併用できません。

 

というのは、労災保険と自賠責保険とで重複する損害費目について、労災保険では「支給調整」を行い、自賠責保険でも「損益相殺」を行うからです。

 

労災保険の「支給調整」とは、自賠責保険から保険金支払いが行われている損害費目について、労災の保険金を給付しなかったり少なくしたりすることをいいます。また、自賠責保険の「損益相殺」とは、労災保険から保険金給付が行われている損害費目について、自賠責の保険金を支払わなかったり少なくしたりすることをいいます。

 

「支給調整」も「損益相殺」も、被害者が補償を二重取りし、実際の損害額よりも多くの支払いを受けることを防ぐ目的で行われます。労災保険と自賠責保険のどちらを優先して使用するかは被害者自身で選択できますが、労災保険と自賠責保険の二重取りは原則できません。

 

 例外的に二重取りできる損害費目も

しかしながら、例外もあります。労災保険で後遺障害7級以上であれば、自賠責保険の後遺障害補償にあたる後遺障害慰謝料と逸失利益の賠償を受けても、7年経過後から労災保険の障害補償年金が支給されます。詳しくは後述します。

 

労災保険と自賠責保険とはどう違う?

労災保険と自賠責保険とは制度が異なるため、補償内容に以下の違いがあります。

 

 

事項

労災保険

自賠責保険

1

支払い限度額

なし

傷害部分は120万円、後遺障害部分は後遺障害等級別に75万円〜4000万円

2

休業補償(休業損害)

休業4日目から平均賃金の60%+休業特別支給金20%

日額6100円(立証資料があれば日額1万9000円を限度とする実額)

3

入院諸雑費

なし

日額1100円(立証資料があれば必要かつ妥当な実費)

4

慰謝料

なし

入通院慰謝料:日額4300円、後遺障害慰謝料:後遺障害等級別に32万円〜1650万円、死亡慰謝料:400万円、近親者慰謝料:請求権者の人数で異なる

5

障害補償年金

あり(後遺障害等級7級以上)

なし(逸失利益として一時金のみ支払い)

6

遺族年金

あり

なし

7

重過失減額

なし

あり(被害者の過失70%〜99%の場合に、傷害部分で20%、死亡・後遺障害部分で最大50%まで保険金を減額する)

 

労災保険を使えば休業補償を120%受け取れる

交通事故被害者は、労災保険を使うことで休業補償を120%まで引き上げることができます。

 

労災保険の休業補償とは

労災保険では、交通事故によるケガが業務災害や通勤災害に該当する場合、労働者(被害者)に休業補償金が給付されます。

 

具体的には、労働者(被害者)が、業務または通勤が原因となった負傷や疾病による療養のため労働することができず、そのために賃金を受けていないとき、その4日目から休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。

                           

労災保険で休業補償を120%受け取れる理由

休業補償給付では、休業4日目から、休業1日につき平均賃金額の60%を労働者に支給されます。このままでは残りの40%は損するように見えますが、休業補償給付で補償されない40%は自賠責保険に請求できますので、これにより休業損害の100%をカバー可能です。

             

さらに労災保険では、休業1日につき平均賃金の20%の休業特別支給金が支給されます。休業特別支給金は損害の填補を目的とするものではないことなどの理由で、加害者・保険会社からの損害賠償金から差し引かれない(損益相殺しない)とされていますので、被害者は、さきほどの100%に休業特別支給金の20%を加え、合計120%の休業補償を受け取れます。

             

労災保険には治療費の限度額がないが、自賠責保険は120万円が限度

労災保険では、労災病院や労災保険指定医療機関でケガの治療を受ける際、治療費に限度額なく療養補償給付を受けられます。つまり、ケガが治癒・症状固定するまで無料で治療を受けることができます。

 

一方、自賠責保険では、治療費など傷害部分の補償に120万円の限度額があります。被害者は、治療費など傷害部分の補償が120万円に達するまでは自己負担なく治療を受けられますが、120万円を超えた場合には、超過額は自賠責保険でまかなえませんので、加害者の任意保険会社や加害者本人に請求することになります。

 

労災保険なら治療費の打ち切りを心配せず治療を受けられる

多くの場合、加害者の任意保険会社は、自賠責保険の分も含めて直接病院に治療費を支払います。これを「一括対応」といいます。一括対応をした任意保険会社は、のちのち、立て替えた自賠責保険負担分を自賠責保険に請求しますが、自賠責保険の限度額を超過した分は任意保険会社が負担します。

 

しかしながら、任意保険会社は必要以上に治療費を支払いたくないと考えているため、一定の治療期間を過ぎると「もうケガは治っている、症状固定している」と判断し、一括対応を取りやめ、治療費を病院に支払わなくなる「治療費の打ち切り」を行います。こうなると、被害者は十分な治療が受けられなくなる可能性が出てきます。

 

その一方で、労災保険には治療費に自賠責保険のような限度額がないため、治療費の打ち切りを心配せず治療を受けられます。

 

労災保険は被害者に重過失があっても治療費全額が給付される

交通事故では、事故の責任の大部分が被害者にあるケースもあります。自賠責保険では、被害者の責任が70%〜99%の場合、支払う保険金に重過失減額という減額を行います。重過失減額では、自賠責保険の保険金を傷害部分について20%、死亡・後遺障害部分について過失割合に応じ20%〜50%で減額します。

 

他方で、労災保険には重過失による支給制限の規定があるものの(労働者災害補償保険法12条の2の2)、交通事故においては実務上ほぼ行われていません。したがって、被害者に70%〜99%の重過失がある事故でも治療費全額が給付されると考えてよいでしょう。

 

なお、被害者の過失が100%の場合には、自賠責保険からも労災保険からも保険金は支払われませんので注意が必要です。

 

労災保険を使うと、後遺障害の補償を二重取りできる場合がある

後遺障害が残るほど大きな被害を受けた場合、その精神的苦痛ははかりしれませんし、仕事に支障が出たりそもそも働けなくなったりなどで、本来得られたはずの収入が減少することがあります。そのため自賠責保険では、被害者に後遺障害慰謝料や逸失利益を一時金として支払い、損害を補償します。

 

一方、労災保険でも後遺障害の補償はあり、後遺障害1級〜7級に認定されると一生にわたって障害補償年金が支払われます。

 

後遺障害7級以上なら、自賠責の後遺障害補償を受けても、7年経過で障害補償年金が支給される

自賠責と労災保険は二重取りできないのが原則ですが、実は、後遺障害7級以上の後遺障害補償では、本来二重取りできないきまりの自賠責保険と労災保険で保険金の二重取りが例外的に可能です。具体的には、後遺障害7級以上で自賠責保険から後遺障害補償を受けた場合、7年経過後に障害補償年金を受け取れる状態になります。

 

例えば、後遺障害7級に認定され、

  • 自賠責保険の損害賠償金が1000万円
  • 労災の障害補償年金が年額100万円

だった場合を考えてみましょう。

 

原則では、自賠責保険と労災保険で保険金の二重取りはできませんので、自賠責の損害賠償金1000万円を受け取ると、労災の障害補償年金年額100万円は10年間受給できず、11年目以降に初めて受給できる計算になるはずです(1000万円÷100万円=10年)。

 

しかし、10年経過せずとも、7年経過で障害補償年金を受給できるとする通知が、厚生労働省から都道府県労働局長あてに発令されています。つまり、このケースでは、労災保険を使ったことで年金3年分の300万円((100万円×(10-7年))=300万円)を二重取りできることとなります。

 

参考:厚生労働省

・第三者行為災害における控除期間の見直しについて(◆平成25年03月29日基発第329011号)

 

交通事故での労災保険の使用はメリット大!ぜひ申請を

これまで見てきたように、交通事故で労災保険を使うと多くのメリットがあります。逆にデメリットはほぼありません。

 

あえて言えば、労災保険指定医療機関以外を受診した場合、被害者自身あるいは被害者の勤務先による治療費の立て替えが必要になりますが、これはあくまで一時的なものですので、手続きをすれば返金されます。労災保険の申請は労働者の正当な権利ですので、まよっている場合には、ぜひ一度申請してみることをお勧めします。

 

交通事故の労災問題は弁護士に相談がベスト!

自分のケースが労災に該当するかわからない、あるいは労災申請の手続きがわからない、勤務先が労災申請を渋っているなどの場合には、弁護士に相談するのがベストです。

 

弁護士であれば、仕事中・通勤中の交通事故での労災申請についてわかりやすく説明してくれます。また、交通事故では労災申請以外にも、慰謝料や過失割合、後遺障害等級認定など複雑な問題がありますが、これらについても相談にのってくれます。

 

交通事故の被害者は怪我を負い、肉体的にも精神的にも大変な思いをしています。わずらわしい問題から離れて治療に専念するためにも、弁護士という専門家の手を借り、より円滑な解決を目指しましょう。